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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)6145号 判決 1997年5月20日

原告

濱崎和亀

被告

菊地里世

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自一九七万七六一〇円及びこれに対する平成七年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自九八二万七九五三円及びこれに対する平成六年九月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、停車中の自動車内にいた原告が、被告菊地里世(以下「被告菊地」という。)が運転し、被告株式会社近畿学院(以下「被告会社」という。)の所有する自動車に衝突され損害を受けたとして、被告菊地に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被告菊地は、平成六年九月一八日午前〇時二五分ころ、普通貨物自動車(和泉四一せ一一七二、以下「被告車両」という。)を運転して大阪府堺市津久野町一丁一〇番六号先道路を走行中、同所の側道に一時停止していた原告の運転する普通乗用自動車(大阪七八る八四五〇、以下「原告車両」という。)の後部に被告車両を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、被告菊地の過失によるものである。

3  被告会社は、本件事故当時、被告車両を所有して自己のために運行の用に供していた。

4  原告は、平成六年九月一八日から同月二六日まで馬場記念病院に通院した後、同日から同年一一月一〇日まで久崎病院に入院し、同病院退院後は平成七年三月二四日まで同病院に通院した。また、平成八年一月九日から同月三〇日までベルランド総合病院に通院した。

二  争点

被告は、本件事故によつて原告の受けた損害を争うが、特に次の二点が中心的な争点である。

1  原告の傷害の程度

(原告の主張)

原告は、本件事故により、頸部、脊椎の運動領域が前屈と左右屈伸についてほぼ二分の一に制限される結果となつたから、少なくとも原告には自賠法施行令二条別表障害別等級表所定の一四級程度の後遺障害が残つたというべきである。

(被告の主張)

本件事故による受傷内容は、全治一週間程度の頸椎捻挫、頭部外傷、背部打撲にすぎず、原告は、遅くとも平成六年一二月中旬には就労可能な状態となつていた。

2  新車購入の示談契約の成立の有無

(原告の主張)

本件事故による原告車両の損害について、平成六年九月二四日ころ、原告と、被告らから示談の代行を委託された富士火災海上保険株式会社の担当者である吉村俊夫(以下「吉村」という。)との間で、原告車両の損傷がひどいので新車への買い換えを認めるか、もしくは新車購入相当費用を支払うとの合意(以下「本件示談契約」という。)が成立した。

(被告の主張)

原告が本件示談契約の成立の根拠とするのは、原告と吉村との電話による会話のみであるが、この会話は事故直後で損害の全貌も判明しない段階でのものであるうえ、会話の内容自体も、支払金額が定められず、代車の返還期限も決まつていないなど賠償内容も明確でなく、本件示談契約が成立したとはいえない。

第三当裁判所の判断

一  原告の傷害の程度について

1  前記争いのない事実と甲第二号証、第四号証、第一一、第一二号証、第一四、第一五号証、乙第一号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、平成六年九月一八日、馬場記念病院を受診し、頸部痛及び強い吐気を訴え、頸椎捻挫、頭部外傷、背部打撲の診断を受けた。その後、原告は、同病院で通院治療を受けていたが、頸部痛等を訴え、同月二六日久崎病院を受診した。

(二) 原告は、久崎病院では頸部痛、悪心、嘔吐を訴え、頸部捻挫、頭部外傷の診断を受け、平成六年九月二六日から同年一一月一〇日まで同病院(個室)に入院した。しかし、同病院で行つたレントゲン撮影、脳波検査では異常は認められず、同病院入院中に行われた治療内容も、頸椎牽引、薬物療法、温熱療法等のみであつた。また、原告は、同年一一月一〇日同病院を退院し、平成七年三月二四日まで同病院に通院したが、退院後の治療内容も頸椎牽引、薬物療法、温熱療法、低周波治療のみで、退院直後から平成七年三月二四日までほとんど同じであつた。

(三) 原告は、平成八年一月九日にベルランド総合病院を受診し、頸椎捻挫の傷病名で同月三〇日までの間に三日間同病院に通院し、同月三〇日症状固定の診断を受け、その際、自覚症状として頸部痛があり、脊柱の障害として、骨折、脱臼は認めないが、なで肩傾向ありとされ、運動障害として、前屈二五度、後屈四五度、右屈三〇度、左屈三〇度、右回旋六五度、左回旋八〇度とされた。

2  甲第一六号証によれば、久崎病院で原告の入院を必要と認めた理由は頸部痛、食欲不振であり、また、個室入院を必要と認めた理由は不安症状が強く、個室への入院が必要と判断したというものであることが認められるところ、原告にはレントゲン等で異常が認められなかつたことや前記の治療内容に照らすと、受傷直後の急性期はともかく、四六日間もの長期間入院を必要とする十分な根拠があつたとは認めがたいというべきである。しかも、乙第一号証によれば、原告は平成六年一二月中旬ころには就労を考えていたことが窺われるほか、甲第八号証、第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、久崎病院整形外科の美延幸保医師も、原告の就労不能期間を原告が同病院を退院した平成六年一一月一一日から同年一二月三〇日までとしていることが認められ、そうすると、原告は、遅くとも同年一二月末には症状もほぼ固定し、特に就労は差し支えない状態になつていたと認めるのが相当である。

3  なお、原告のベルランド総合病院への通院は久崎病院へ最後に通院したと認められる平成七年三月二四日からかなりの期間が経過した後になつてわずか三日間通院したにすぎないものであり、平成七年三月二四日以降ベルランド総合病院へ通院するまでの間の原告の症状は不明であるうえ、甲第一五号証には、脊柱の運動障害として、前記一1(三)の数値が記載されているものの、右は頸椎部の障害であるのか胸腰椎部の障害であるのかの記載を欠き、更に、甲第一五号証によれば、原告にはレントゲン上なで肩の傾向ありそれによる頸部痛も考えられることが認められ、本件事故によつて原告の主張するような後遺障害が原告に残つたものとは認められないというべきである。

二  原告の損害について

原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けたものと認められる。

1  付添費 〇円(請求三二万円(入院分二三万円、通院分九万円))

原告は、原告の前記入通院に際し近親者がこれに付き添い、これにより三二万円の損害が生じたと主張するが、原告の前記症状に照らせば、原告の入通院に付添を要したものとは認められないから、原告の右主張は採用できない。

2  通院雑費 〇円(請求二三万三七六五円)

原告は、平成六年一一月から平成七年五月までの間通院に際し、一か月当たり三万三三九五円の雑費を負担したと主張するが、その具体的な内容及び支出の事実についての主張、立証を欠くから、右主張は採用できない。

3  診断書料 三〇〇〇円(請求どおり)

弁論の全趣旨によれば、原告は、診断書代として三〇〇〇円を負担したものと認められる。

4  休業損害 一〇三万六七二二円(請求二三六万九五〇〇円)

甲第三号証の一ないし三及び第五号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時有限会社イワオ電気に勤務し、平成六年六月から八月までの間に九一万七一〇一円の給与の支払を受けていたことが認められるところ、原告は本件事故により平成六年九月一八日から同年一二月三〇日までの一〇四日間就労できなかつたと認められるから、原告の休業損害は一〇三万六七二二円となる(円未満切捨て)。

計算式 (297,367+329,367+290,367)÷(30+31+31)×104=1,036,722

なお、原告は、本件事故によつて、平成六年一二月の賞与が五万円減額されたと主張する。しかし、原告が右立証のために提出する甲第七号証(賞与減額証明書)には、支給対象期間が平成六年九月二四日から平成七年三月二三日、支給年月日が平成六年一二月三〇日、支給額は五万円、減額した額は五万円との記載があるが、右額を算定した計算式の記載を欠くうえ、甲第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は平成六年一二月八日に有限会社イワオ電気を解雇されたことが認められるから、支給対象期間が平成七年三月二三日までとされる趣旨も不明であり、仮に原告が賞与について五万円の減額をされていたとしても、減額分と本件事故との相当因果関係は不明といわざるをえず、右をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

5  後遺障害 〇円(請求一三五万四〇〇〇円)

前記のとおり、本件事故によつて原告に後遺障害が残つたとは認められない。

6  慰藉料 七〇万円(請求二〇四万円(入通院分一〇二万円、後遺障害分八五万円、その他一七万円))

既に認定した本件事故の態様、原告の傷害の程度及び治療の経過その他本件に顕れた一切の事情に照らすと、原告が本件事故により被つた精神的苦痛を慰藉するためには七〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

原告は、本件事故により原告が有限会社イワオ電気を解雇されたことを慰藉料額の算定に当たり考慮すべき旨主張するが、右解雇の理由は不明であり、本件事故と相当因果関係を認めるに足りないから、右主張は採用できない。

7  車両損害 一〇六万八三八八円(請求三一五万七六八八円)

検甲第一ないし第三号証、乙第三号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が自動車保険契約を締結している保険会社から依頼を受けた調査会社が、車両検査証上の原告車両の所有者である株式会社大阪農協自動車の担当者立会いのうえ、原告車両の損害状況を調査したところ、原告車両は修理が可能であり、その費用として一〇六万八三八八円(消費税を含む。)を要するとの結果であつたことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

ところで、原告は、本件示談契約の成立を主張し、車両価格相当額の二七七万五〇〇〇円を請求するところ、原告は、原告の妻が吉村に対し新車にして欲しいと言つたところ、吉村は合意するようなことを言つていたと妻から聞いた旨供述し、また、甲第六号証、甲第一三号証には、原告の妻が吉村に対し、新車の購入の希望を伝えていることを窺える記載があるけれども、吉村が原告の妻の希望に対し確定的に承諾したことを認めるに足りる証拠はなく、また他に本件示談契約の成立を認めるに足りる証拠も見当たらないから、原告の右主張は採用できない。

なお、原告は、そのほかに、新車の購入を前提として、消費税(請求八万三二五〇円)、自動車税(請求九八〇〇円)、重量税(請求五万六七〇〇円)、取得税(請求一三万八〇五〇円)、登録費用(請求二万九八〇〇円)、車庫証明費用(請求一万九八〇〇円)、登録費用及び車庫証明費用の消費税(請求一四八八円)、自賠責保険料(請求四万三八〇〇円)の損害が生じたと主張するが、本件示談契約が成立したものとは認められないから、右主張も採用できない。

三  結論

以上によれば、原告の損害は二八〇万八一一〇円となるところ、原告が被告らから休業損害分として一〇一万〇五〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、右よりこれを控除する(なお、被告らは、右のほかに通院交通費、入院雑費、治療費、診断書代、代車費用として合計七三万三一一九円の既払があると主張するが、乙第五、第六号証及び弁論の全趣旨によれば、これらはいずれも原告が請求していない損害に係るものであると認められるから、これらについては右から控除しないこととする。)と、残額は一七九万七六一〇円となる。

本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は一八万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告ら各自に対し、一九七万七六一〇円及びこれに対する本件事故より後の日である平成七年二月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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